子どもの声は「騒音」ではなく「魅力」であることを実証!意識したい「サイレントマジョリティ」の声とは
本当に騒音?子どもの声や鐘の音は訪問意向を高めることが科学的に明らかに!
都市設計・政策では、一部の声高な少数派(ノイジーマイノリティ)の意見を濃く反映してしまうリスクがあります。
まちづくりを司る自治体や不動産では、食品や車メーカーなどと異なり、顧客価値の検証をする例が乏しいため、静かに支持している物言わぬ多数派(サイレントマジョリティ)の意見が可視化されてこなかった背景があります。その結果、一部の強い苦情に影響を受けてしまう例が後を絶ちません。
例えば、子どもの声がうるさいとの近隣住民の苦情をきっかけに、公園の廃止や保育園新設の中止という事例があります。
除夜の鐘を中止する寺院も報道されています。
ソーシャルメディアやインターネット記事へのコメントでも、ノイジーマイノリティのコメントが色濃く反映されます。サイレントマジョリティの存在を無視し、積極的かつ熱心な反対派であるノイジーマイノリティの意見ばかりが反映されると、都市の風情や活気が失われていく懸念があります。
日本電気株式会社(NEC)、株式会社hootfolio、明治大学商学部加藤拓巳准教による共同研究では、公園を対象として、電車の音よりも鐘の音と子どもの声の方が魅力的で、訪問意向を高め街の居住意向に寄与することを科学的アプローチで実証しました。
この結果は、日本感性工学会 優秀発表賞を受賞しました。
年齢による傾向も。あなたはどう感じていますか?
公園を対象として、電車の音、鐘の音、子どもの声が魅力・訪問意向・街の居住意向に与える影響を比較検証しました。図1に示すとおり、共通の公園の画像に、電車の音、鐘の音、子どもの声を挿入した動画を作成し、日本の20-60代の2,250人への調査で実験を行いました。
被験者は電車の音、鐘の音、子どもの声を挿入した動画の中からランダムに1つを視聴したのち、魅力・訪問意向・街の居住意向を5段階尺度で評価をしました。その結果、図2に示すとおり、電車の音よりも、鐘の音と子どもの声の方が高いスコアを獲得しました。この結果はすべての指標で同じ傾向でした。
公園の印象に対する自由回答のテキストを分析すると、図3に示すとおり、電車の音のグループのみ「うるさい」が最も多く出現しました。「うるさい」は、電車の音では13.8%に対して,子どもの声では6.6%,鐘の音では0.7%でした。「楽しい」は、電車の音では0.8%に対して、子どもの声では9.5%、鐘の音では0.8%でした。
図4に示すとおり、性別(男、女)×年齢(20-44歳、45歳-69歳)ごとに評価の違いを分析した結果、いずれの指標でも、鐘の音と子どもの声を好意的に評価したのは45歳-69歳の男性でした。それに対して、20-44歳の女性は、いずれの指標でも鐘の音と子どもの声に対する評価は他の属性より低くなりました。特に子どもの声への評価が低く、居住意向では電車の音の方が高い評価となりました。このような傾向は、子どものいない20-44歳の女性ほど顕著でした。
この結果の背景には、日本の古い社会制度・価値観が影響していると考えられます。働く20代-40代女性の多数が仕事と出産の両立に悩んでいらっしゃいます。キャリアのために出産を断念する場合すらあります。この悪しき制度が女性を苦しめてしまい、その結果子どもの声を低く評価する懸念があります。
そのような状況に陥らせてしまう日本の制度・価値観を変えるために、子どもの声・鐘の音への苦情に対して戦っている政治家や企業がいます。批判に負けて、都市から公園が消え、保育園が消えていくと、ますます子育てが難しくなってしまうからです。サイレントマジョリティは静かに賛成をしているだけで、なかなか声を挙げてくれません。よって、サイレントマジョリティを含めた市場全体の評価を可視化したこの活動の成果がそのように戦っている方々の一助になることを期待しています。
子どもの声への評価は、社会問題にもつながっている
本研究の結果の示唆は、主に2つです。
(1) 都市政策において、サイレントマジョリティを無視し、ノイジーマイノリティに影響を受けた政策 は、全体の評価と乖離する懸念があります。実際、鐘の音や子どもの声に対しては、全体としては肯定的な評価です。市民全体のエビデンスなきまま意思決定をすると、都市の風情や活気が失われていくリスクが大きいです。
(2) 苦情、あるいは低い評価を受けた政策について、その発信元の市民属性とその理由を詳細に分析すべきです。その結果、世間のイメージと異なる実態が浮かび上がる可能性があります。これを見誤ると、適切な対処をすることができません。
論文情報
加藤拓巳・千葉友希・服部亜美・池田亮介・小泉昌紀. (2025). 都市の生活音に対するサイレントマジョリティの印象の可視化 -鐘の音と子どもの声が公園の魅力に与える影響-. 日本感性工学会講演論文集、 2(2)、 1-7.
この記事に関連するページ
加藤拓巳准教授Webサイト:https://takumi-kato.com/
NECスマートシティWebサイト:https://jpn.nec.com/smartcity/scientific_approach/index.html
株式会社hootfolio Webサイト:https://hootfolio.com/