備えあれば憂いなし! 知っておきたい ママとパパの更年期
「更年期」は、だれもが経験するライフステージ。英語で「the Change of Life」(人生における変化)ともいうように、人生のターニングポイントでもあります。女性だけでなく、男性にも訪れます。
ただ、更年期には身体的にも精神的にもさまざまな症状が起こるということは知っていても、いつからいつまで、具体的にどんな症状が起こるのかがわからないために、更年期に対して漠然とした不安を抱えている方は少なくないように思います。
また、更年期に先立つ30代半ばから40代半ばの「プレ更年期」に、更年期と同じような症状に悩まされる方もいます。プレ更年期には、20代に比べて体力の衰えを感じたり、ライフステージが大きく変化したりする人も多いでしょう。そのため心身の不調が表れやすい時期でもあるため、現在の不調がプレ更年期によるものなのかどうかわからないという声もよく耳にします。
大切なのは、いざその時が来ても慌てずに済むように、更年期について正しく知ること。そこで今回は、更年期に備えて今のうちからできることやしておきたいこと、男女の更年期の違いなどについて、女性泌尿器科医であり、女性のステージ別の医療を提供する「女性医療クリニックLUNAグループ」理事長の関口由紀さんにお話をお聞きしました。
関口由紀(せきぐち・ゆき)さん
女性医療クリニックLUNAグループ理事長。横浜市立大学泌尿器病態学客員教授。2005年横浜元町女性医療クリニック・LUNA開業。18年、ステージ別に「LUNA横浜元町」(2階)と「LUNAネクストステージ」(3階)に再構成。女性の生涯にわたるヘルスケアを実践。(www.luna-clinic.jp)女性の一生涯にわたるライブスタイルを提案するインターネットサイト「フェムゾーンラボ」(www.femzonelab.com)の社長でもある。
女性の更年期は
閉経前後の10年間
女性の場合、最後の月経(生理)から一年間、月経がなければ、その一年前が閉経ということになり、更年期は閉経のプラスマイナス5年間を指します。日本人が閉経を迎える平均年齢は52歳前後(厚生労働省「健康実態調査」などによる)ですので、40代半ばから50代半ばまでの間が更年期という方が多くなります。更年期に起こる女性ホルモンの低下、それも不規則にアップダウンしながら低下していく過程で心身に起こるさまざまな不調を更年期症状といい、その症状が重く、日常生活に支障をきたす状態を更年期障害といいます。
代表的な症状には下記の3つがあります。
- 血管運動症状
ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)のことで、これはほぼ誰にでも起こる症状です。身体が突然熱くなって顔面が紅潮し、ほてりや発汗、脈拍の増加が数分間にわたり続きます。
- 自律神経失調症状
不眠、めまい、立ちくらみ、頻尿など、さまざまな症状が起こります。たとえば、それまで平気だった匂いを臭いと感じたり、それまで気にならなかった下着の縫い目を不快に感じたり、それまで許せていた他者の発言が許せなくなったりと、知覚過敏になると思っていただけるとわかりやすいでしょう。
- 精神神経症状
知覚過敏になることもあってイライラすることが増えるほか、不安やうつ状態、意欲低下などの症状が起こることがあります。
国内では、更年期症状の有無や程度の把握には、「更年期症状指数票(SMI)」が広く用いられています。
こうした更年期症状は、プレ更年期の30代半ばから40代半ばに出ることもあります。ただその場合、血液検査をしてみると女性ホルモンはまだ十分にあることがほとんどです。プレ更年期は、20代と比べて体力や卵巣機能が低下する一方で、生殖可能な最後の時期ということで、女性ホルモンがたくさん出てしまうことがあります。性ホルモン(女性ホルモン・男性ホルモン)は多すぎても少なすぎてもトラブルが起きます。つまり、たくさん出た女性ホルモンに身体の機能が追い付かない結果、更年期と同じような症状がでてしまうのです。
そうした人は、心身ともに無理をしていることが多いので、まずは生活習慣や人間関係を見直すところからはじめるのがいいでしょう。それでもだめなら、黄体ホルモン(女性ホルモン)製剤や超低用量ピルによって排卵の機能を調整するなどの治療もあります。また、黄体ホルモンを子宮内に持続的に放出するミレーナ(IUS:子宮内避妊システム)の装着も、過多月経や月経困難症の治療目的であれば保険が適用されます。
“推し活”もおすすめ!
更年期に備える&乗り越えるための健康習慣
更年期に起こるさまざまな不調を緩和するためには、まず適度な運動とバランスのとれた食生活を含め、規則正しい生活習慣を心がけることが大切です。それでだめなら漢方やサプリ、鍼灸やマッサージを試して、それでもだめなら投薬、ホルモン補充の治療を受けるというように、徐々にステップアップしていきます。なにが合うのかは体質にもよりますので、食事と運動で改善される人もいれば、長期間の治療が必要になる人もいます。
次のステップに進む目安は、QOL(Quolity of Life/生活や人生の質)への満足度。自分の努力の結果として、QOLへの満足度が8割ならそのまま続けますが、努力しているのに、満足度が5割以上にならない場合は、次のステップに進みましょう。
私が理事長を務めるLUNAグループの場合、ホルモン補充については、全身への補充は60代半ばまで、その後はフェムゾーン(腟と外陰)の局所ホルモン療法をおすすめしています。また、私は泌尿器科医で男性ホルモン(テストステロン)を扱いますので、閉経後のバイタルエナジー低下、性的意欲低下、筋力低下などに対して、男性ホルモンの少量補充による治療も行っています。
テストステロンは女性の体内でも作られており、筋肉や骨の量、強度など身体の強さを保つほか、活力や生命力、集中力や行動力を高める作用があります。女性ホルモンが急激に減少する更年期には、女性の体内でもテストステロンのほうが優位になり、心身の健康を支える働きをしています。
テストステロンは、日々の生活の中で増やすこともできます。筋力がアップすると増えるので、有酸素運動(大股で一日4000~5000歩のウォーキングなど)と、骨に刺激を与える運動(30~40分×週2~3回の筋トレなど)を組み合わせて行うなど、適度な運動を心がけましょう。食事に関してはタンパク質が非常に重要。肉・魚・卵・大豆・乳製品などを若いうちから一日1~2回、年を重ねてからは毎食とるのがおすすめです。
また、お出かけも大切。テストステロンは行動ホルモンなので、多い人のほうがたくさん行動するし、行動したほうが増えます。これに関連しておすすめしたいのが推し活。脳に刺激を与えることで“幸せホルモン”といわれるドーパミンや、“愛情ホルモン”といわれるオキシトシンが出ますし、推しに会うために外出する機会も増えます。
閉経後、3年くらいすると女性ホルモンの量は10分の1に下がりますが、アップダウンしなくなるため、更年期の症状は落ち着いていきます。ただ、女性ホルモンが低下したことによって、動脈硬化や糖尿病、高血圧、高脂血症といった健康リスクが高くなり、骨粗しょう症も起こしやすくなります。また、外陰部のかゆみや痛み、頻尿、再発性膀胱炎などのフェムゾーントラブルも約半数の人に起こります。60~70代以降は認知症の予防も必要です。
老化はだれにでも起こりますが、若いうちから健康習慣を身に付けて、元気に過ごせる時間ができるだけ長く続くように、無理をせず、心身を管理しながら楽しむことが大切です。
更年期は怖くない!
知っておくことが力になる
更年期は男女ともに訪れます。ただ、男性ホルモンの分泌はストレスや生活習慣の影響を受けやすいこともあり、男性の更年期は女性の閉経のように特定の時期に訪れるのではなく、40代から70代まで、幅広い世代で発症します。そのように、いつ起こるかも、いつ終わるかもわからないのが女性の更年期との大きな違いです。
男性の更年期障害はLOH症候群と呼ばれます。更年期症状は、ホットフラッシュ・自律神経失調症状・精神神経症状等は、女性と変わりませんが、男性の場合はさらに性機能の低下(特にED)も症状として現れます。治療には、まずはなんらかの排尿のトラブルの自覚があれば、前立腺肥大症に伴う排尿障害の改善の薬として厚生労働省に承認されているザルティアなどの勃起補助薬(PDE5阻害薬)などを用います。さらに亜鉛含有のサプリや漢方薬で症状が改善する場合もあります。血液検査で男性ホルモンの低下を長期に認めるようであれば、男性ホルモン(テストステロン)の補充を行います。
男女とも更年期症状にはさまざまあるので、病院を受診する場合は、婦人科や泌尿器科に限らず、総合した女性医療をこころがけている施設や、更年期、LOH症候群の専門外来を設けているところなど、更年期症状についてしっかり診察をしている病院を選ぶことが大切です。自分に合った医師・病院と出会えるまでに3件は回るといいでしょう。
また、更年期症状のひとつにうつ状態がありますが、女性のように時期が定かでない男性の場合は、その症状がLOH症候群によるものなのか、うつ病によるものなのかの判断が難しいという特徴もあります。男性ホルモンを補充しても改善しなければ、うつ病の治療をすることになります。
社会はずいぶん変わってきているとはいえ、まだまだ男性社会。「休めない」、「周りに合わせなきゃダメだ」といって無理をする男性も少なくないでしょうし、そういう人ほど更年期症状を悪化させやすいとも言えます。もしパートナーが更年期症状で苦しんでいるのであれば、「休んだらいいよ」、「周りに合わせなくてもいいんじゃないの?」と、ひと言かけてあげるだけでも、相手はずいぶん楽になるでしょう。
更年期症状で相手が辛そうだなと思ったら、男女問わず、話を聞いてあげることが大切だと思います。そのときには、傾聴する姿勢が大切です。相手の立場に立って、気持ちに共感しながらしっかり話を聞いてあげましょう。
夫婦で更年期を乗り越えるためには、そうしたコミュニケーションを普段からとることが欠かせません。育児についても家事についてもとにかく話し合う。はっきりいうことも時には大切で、黙って我慢するのが一番よくないように思います。
子どもとの関係も同じで、やはりコミュニケーションが大事。また、自分が更年期症状でつらいときに無理をしなくて済むよう、パートナーはもちろん、親類や友人、行政のサポートを得られる環境を整えておくことも大切だと思います。
更年期を恐れる必要はありません。誰にでも起こることですし、女性の場合は必ず終わりがきますから、前向きにとらえましょう。そのためにも、前もって更年期について知り、準備しておくことがとても大切です。実際に、ヘルスリテラシーの高い女性のほうが更年期症状が軽く、更年期をうまく乗り越えられることが分かってきています。
しかも、出産を経験した女性は、産後にホルモンバランスの崩れを体験していますから、それを乗り越えられたなら更年期も乗り越えられます。イライラするのも、落ち込むのも、自分のせいじゃなくてホルモンのせいだと思うと楽ですよ。
女性は、更年期を経て“reborn”=生まれ変わるとも言えます。更年期後の30年間はぜひ、生まれ変わった気持ちで楽しく暮らしていただきたいですね。一番は、人間関係を含めて、身体的にも精神的にも無理をしないこと。そのうえで、自分だけの時間も、家族との時間も、お友達との時間も楽しめるというのが人間の幸せ、理想的な姿だと思います。
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性ホルモンで乗り越える男と女の更年期
知っておきたい驚異のテストステロンパワー
(関口由紀/著 産業編集センター/発行)
元気ホルモン=テストステロンをもとに男女の更年期について分かりやすく解説。食事、運動、睡眠、治療など、さまざまな方面から更年期の不調を改善する方法が紹介されています。