「ヘルスリテラシー」を身につけて 自分らしく生きよう!
ヘルスリテラシーという言葉を聞いたことはありますか? 実は、ヘルスリテラシーを高めることが、自分らしく生きることにもつながっています。
ヘルスリテラシーと自分らしさの関係とは?
京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康情報学分野 教授の中山健夫先生に伺いました。
中山健夫先生 プロフィール
東京医科歯科大学医学部卒、内科研修後、同大難治疾患研究所疫学部門、米国カルフォルニア大学ロサンゼルス校フェロー、国立がんセンター研究所がん情報研究部室長を経て、現在は京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 教授を務める。健康情報学を専門とし、公益財団法人日本医療機能評価機構Minds(マインズ)や国立研究開発法人日本医療研究開発機構AMED(エーメド)でEBM・診療ガイドラインやさまざまな医療の研究に携わっており、日本の医療と公衆衛生に貢献している。
ヘルスリテラシーとは?
「ヘルスリテラシーとは、情報リテラシーの一種で、簡単にいうと“健康に関する情報に振り回されず、自ら意思決定をする力”のことです」
ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社が2023年に日本・アメリカ・イギリス・オーストラリア・中国・フィンランドの 6 カ国における 20~60 代の 3,000 人を対象に行った調査によると、日本人のヘルスリテラシー自己評価 は、6カ国中最も低いという結果が出ました。
こちらの調査は自己評価式であり、日本人は控え目な傾向があるので一概に悲観はできないのですが、日本人は“意思決定できる自信がない”という部分が浮き彫りになったと言えるかもしれません。
「情報リテラシーの基本は、情報を鵜呑みにしないで、少しとどまって考えること。
自戒を込めてですが、日本人は騙しやすい・騙されやすい国民性があるのかもしれません。人を疑うのは良くないこと、という気持ちを持っている方は少なくないのではないでしょうか。情報やコミュニケーションは、人の命を支えることもあれば奪うこともあります。情報に振り回されないためにも、ヘルスリテラシーを高めて、上手に付き合っていくことが大切です」
「ヘルスリテラシー=自分で決める力」が大切な理由
SNSや生成AIから流れる情報は、時に命を奪う刃にもなります。
「多くの日本人が普通に持っている、“人のことを疑うことはよくない”という気持ち、もしかしたら文化や価値観かもしれませんが、自分と家族の身を守るためにそれを乗り越える必要もあります。もっと言うと、守るだけではなく、誤った情報や時には悪意に迷わされず、限られた人生を最大限よりよく、自分らしいものにしていく前向きな気持ちにもつながります。少しとどまって考えて、自分の価値観を見つめることで、リテラシーが高まり、自分のための意思決定に向けて一歩進むことができるでしょう。
ヘルスリテラシーを高めると、情報を分析する力と人生に対して自主的に対処する力がつきます。つまり、リスク回避だけでなく、QOL(Quality Of Life)の向上にもつながるといえるのです。
コロナの時に経験されたと思いますが、最初は分からない部分が多かったけれど、徐々にいろいろなことがわかってきましたよね。その情報から、あなたはどのような意思決定につなげていきますか?ということなんです。
根拠のあやふやな情報に踊らされるのではなく、気持ちを落ち着けて、情報を見分けるように努めて、自分で決める力を養っていくことが大事です。
ついつい、これは正しい・間違っているとか、すぐに白黒つけたくなってしまうこともありますよね。ですが、本当は白黒つけられることってあまり多くありません。“灰色の部分”があることが普通だと思って、完全な情報が無くても、とりあえずの意思決定をして、状況が変化したら考えを柔軟に変えていく、ということも十分ありです。そう考えてみると意思決定もしやすくなるのではないかと思います」
ヘルスリテラシーは「自分らしさ」を生み出せる
そうは言っても、自分で決めるというのは不安もありますね。
決められるように、ヘルスリテラシーを高めるためには、何から始めればよいのでしょうか。
「まず、自分が本当に大事にしたいことを知り、自分の価値観を見つめ直すことです。
ここ10年くらいの世界の動きとしてヘルスリテラシーが目指すものは、“健康の先にある、多様な人生を自分らしく生きること”。
私たちは、健康のためには生きていないですよね。まず健康という土台があって、その上で何をしたいのかを見出したいのではないかと思います。
ヘルスリテラシーを身につけることは、人生を主体的に生きることであり、さらに自分らしく生きること、とも言えるのです。
仕事をしている女性のなかには、社会的に自己実現をしたい人、または家庭が一番大事という人もいるでしょう。どちらかだけを選ぶ必要はないけれど、本当に大事にしたいものを、今大事にできていないと感じられるなら、自分のこれまでの価値観や優先順位を見直す時かもしれません。時間と共に状況が変化したら、それはまた見直せるものでもあります」
今、意識したいコミュニケーション
「リテラシーとコミュニケーションは、隣り合わせにあります。人間は、コミュニケーションがなくなると孤立してしまいますよね。実は、孤立すると早死にしてしまうことがデータからもわかっています。
そして恐ろしいことに、出産後、孤独を感じる女性が多いというデータもあるのです。こういった潜在的な悩みについて、どう他人に伝え、ヘルプを求められるコミュニケーションが可能な社会にしていくかという課題も挙がっています。
そう遠くない未来、カウンセリングでAIが活躍する日が来るかもしれません。
人間だから話せることと、人間だから話せないことってありますよね。かえってAIの方が自分のことを話せるかもしれない。
これからは人間関係も、AIとの関係も課題になってきます。これも、広くいうと私たち人間に必要とされるリテラシーです。どんな相手とどんなコミュニケーションをとるか。どういうふうに付き合っていくか。あやふやな情報に迷わされず、自分の本当に大切なものを守っていくために、自分の意思を決められる力をつけていきましょう」